【ゾッとする話】2歳娘の「オカピこわい」の言い間違い【怪談】

夏なので怖い話をします。
ゾッとする話~「オカピこわい」
引っ越してきて、3ヶ月くらい経った。
うちはアパートに住んでいるんだけど、上の階の足音が毎晩うるさい。
ドンドン、ドンドンドン
決まって、23時から25時くらい。
その時間には二歳の娘はとっくに寝ていて、私も妻も布団に入っている。
眠りかけた頃、天井の上を誰かが歩き始める。
一、二歩ではない。
部屋の中を行ったり来たりするように、忙しなく歩き回っている。
ドンドン。
ドンドン。
音で目が覚めることもあった。
「うるせぇなぁ」
「上の人、毎日帰り遅いんだなぁ」
腹は立ったけれど、その程度にしか思っていなかった。
集合住宅なんだから、生活音くらいは仕方がない。
そう思って、毎晩やり過ごしていた。
ちょうど同じ頃、娘のおしゃべりが急に上手になってきた。
保育園で覚えてきた歌を歌ったり、先生や友達と踊ったらしい振り付けを披露したりすることが増えた。
まだうまく発音できない言葉も多かったけれど、それも含めて微笑ましかった。
そんな娘の最近のトレンドが、
「オカピ、こわい」
だった。
オカピ。
あの、脚に縞模様のある動物だろうか。
「なんでオカピなんだよ」
「ライオンとかゴリラじゃないんだ」
妻と笑った。
娘がどこでオカピを知ったのかは分からなかったが、子どもの言うことだ。
特に気にしていなかった。
ある日、娘が保育園で覚えた歌を披露してくれた。
「おばけなんてないさ」
ところどころ歌詞は怪しかったが、間違いなくその歌だった。
歌い終わった娘が、いつものように言った。
「オカピ、こわい」
そこで、ようやく分かった。
オカピではない。
娘はずっと、
「おばけ、こわい」
と言っていたのだ。
なんだ、そういうことか。
「おばけ」がうまく発音できず、「オカピ」になっていたらしい。
かわいい言い間違いがほほえましかった。
うちには、六畳の和室がある。
娘のおもちゃや絵本を置いていて、普段は遊び部屋として使っている。
昼間の娘は、その部屋が大好きだった。
自分から走って入っていき、一人で遊んでいることも多かった。
ところが、ある日の夜。
娘が和室の入口で立ち止まっていた。
電気は消えている。
娘は部屋の中に入ろうとせず、暗い和室の奥をじっと見つめていた。
「どうしたの?」
声をかけても動かない。
ふざけている様子ではなかった。
泣き出す直前のような顔で、部屋の奥から目を離さない。
そして、小さな声で言った。
「オカピ、こわい」
少し気味が悪かった。
けれど、夜の和室が暗くて怖いだけだろうと思った。
二歳の子どもなら、昼間は平気な場所でも、電気が消えていれば怖がることくらいある。
そう思った。
それからも、娘は夜になると和室の入口で立ち止まった。
中には入らない。
暗い部屋の奥を見つめて、
「オカピ、こわい」
と言う。
しばらくして、上の階の足音がさらにひどくなった。
ドンドン、ドンドンドン
相変わらず、23時から25時頃。
誰かが部屋の中を忙しく歩き回っている。
その音で娘まで目を覚ますようになり、夜泣きが増えた。
私も妻も寝不足になった。
さすがに耐えられなくなり、管理会社に電話をかけた。
「上の階の足音があまりにうるさくて、子どもも起きてしまって迷惑です。注意していただけますか」
電話口の担当者は、すぐには答えなかった。
部屋番号を確認したあと、数秒の沈黙があった。
そして、戸惑ったような声で言った。
「上の階は、空室でして……」
「お客様が入居される前から、空室になっています」
その言葉を聞いた瞬間、和室の入口で立ち止まる娘の姿が浮かんだ。
暗いから怖がっていたんじゃない。
娘は、部屋の奥を見ていた。
「オカピ、こわい」
上の階には、誰も住んでいない。
なのに毎晩、誰かが歩き回っている。
そして娘は、和室にいる何かを見ていた。
私たちはそれに気づかないまま、三か月間、この部屋で暮らしていた。
今も、和室は娘の遊び部屋のままだ。
そしてその夜も、23時を過ぎた頃。
天井の上を、誰かが歩き始めた。
気づいてしまったあとも
上の階が空室だった。
ただ、それだけのことだった。
けれど、その事実を知った瞬間、それまで気に留めていなかったことの意味が、すべて変わってしまった。
毎晩聞こえていた足音は、上の住人の生活音ではなかった。
そして娘は、暗い和室そのものを怖がっていたわけではない。
和室の入口で立ち止まり、部屋の奥を見つめていた。
そこにいる何かを見ながら、
「オカピ、こわい」
と言っていた。
私たちが上の階の足音を生活音だと思い込んでいたように、娘の怯えも、暗い部屋を怖がっているだけだと思い込んでいた。
けれど、一つが思い込みだったのなら。
もう一つも、そうだったのかもしれない。
この話は、怪異が突然現れた話ではない。
そこに何かがいると、あとになって気づいてしまった話だ。
私たちは何も知らないまま、三か月間、その部屋で暮らしていた。
娘は、いつから気づいていたのだろう。
そして。
気づいたからといって、それがいなくなったわけではない。
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