【物申す】安倍元首相の“潰瘍性大腸炎は仮病”は誤解です──報道はどこまで人を傷つけるのか。

だがUC経験者として物申す。それは誤解である!
“所見がなかった”ことをもって病気を否定する報道のあり方に、心から異議を唱えたい。
誤解です。「潰瘍性大腸炎の所見なし」は仮病じゃない。
「潰瘍性大腸炎の所見がなかった」──この報道を見た瞬間、SNSでは“仮病だったのでは”という言葉が飛び交ったそうです。しかしこれは医学的にも論理的にも誤解です。
※2025年11月1日19:26現在、「元になった記事」は見つからず。トンズラしたな。
潰瘍性大腸炎(UC)は、症状が出る「活動期」と炎症が落ち着く「寛解期」を何度も繰り返す病気です。
そして寛解期には、大腸の粘膜はほぼ正常に戻り、内視鏡でも「所見がない」と判断されることは全く珍しくありません。
つまり、「所見なし=病気じゃない=仮病だった」ではなく、「所見なし=治療経過良好だった」だけのこと。
この仕組みを知らないまま仮病と断じるのは、病気の特性を無視した短絡的な解釈です。
潰瘍性大腸炎はどんな病気?わかりやすく説明します。
潰瘍性大腸炎(UC)は大腸の病気ですが同時に「免疫の病気」というとらえ方もできるややこしい病気です。
ざっくり言うと、大腸が“自分で自分を攻撃してしまう”病気です。

上の図のように、私たちの正常な免疫は本来「悪いウイルスや細菌だけを倒す」ようにできています。
潰瘍性大腸炎では、この免疫が暴走を起こしてしまい、“敵じゃないもの”まで攻撃してしまうのです。その結果、腸の内側が炎症を起こし、ただれて(潰瘍ができて)しまう──これが病名の由来にもなっています。もう少し医学用語を突っ込むと、下の図のような感じです。だれでもやさしく理解できるよう、学校に例えてあります。

※注:パスワード付のメール=炎症性サイトカイン「IL-12」「IL-23」

症状が出る「活動期」と炎症が落ち着く「寛解期」がある
根治の方法は2025年11月1日現在ありません。対症療法のように有効と思われる薬を順番に試していくことで寛解を目指すというのが基本的な治療方針となります。根本的な原因も分かっていません。(原因となる炎症性サイトカインは判明している)。
食事に関しても偏見が多いですが、例えば「マック」を食べたら再燃する人もいるし、「牛乳」がダメという人もいる。「卵」の人も「特定の野菜」の人も「プレミアムしょうゆ豚骨ラーメン」がダメな人もいます。
不摂生な食事はそもそも健康への影響を考えれば避けるべきですが、特定の食事や摂取物で再燃はしません。
寛解している間は健常者とまったく変わらない生活、食事が可能です。
内視鏡で観察した時も、「所見なし」と判断されることはよくあることです。UC患者の私たちからすれば、「所見なし」という言葉ほど嬉しい言葉はない。
症状の辛さはどんなものか?
軽症~中等症~重症~劇症といった段階や、炎症の広さによる区分はありますが、安倍晋三元首相は公表されている内容から中等症程度であった可能性が高いので、中等症をベースに症状を紹介します。
※私もUC中等症です。相当辛いですよ。
- 断続的な腹痛(夜間睡眠中にも起こる)
- 大腸粘膜の炎症による下血(血便)と、それに伴う貧血
- 下痢や水様便など、便の切迫により外出など日常生活に支障をきたす場合も
- 1日に何度もトイレに行かなければならない(1日10回以上のことも)
安倍元首相は、根治しない不安(=再燃するかもしれない不安)と業を背負ったまま、内閣総理大臣という日本で最も重要な役職と責務を全うしていたということです。一応私は右でも左でもありませんので言及しておくと、政治家なので賛否はあって当然だと思っています。彼の政策、してきたことを全肯定する意図はありません。
治療方法は?
色々ありますが、総じて「免疫を抑制する薬の投与」を「継続的に」行います。
服用できる薬を毎日の場合もありますし、静脈点滴で投与する場合もあります。皮下注射でセルフ注射の薬もあります。人によって症状の出方は異なるため、人によって治療方法も異なります。
報道の“切り取り”が生んだ誤解──なぜ「所見なし」が誤解に繋がったか
まずいったん整理しよう。報道上、下記のような流れが起こっています。
- 裁判の証言で、安倍晋三元首相の解剖を担当した教授が「潰瘍性大腸炎の所見を認めなかった」と述べた、という報道が拡散されました。 X (formerly Twitter)+2search.yahoo.co.jp+2
- その内容がSNSで瞬間的に「つまりUCじゃなかった」「仮病では?」という憶測とともに拡散。 search.yahoo.co.jp+1
- 一方で、医学的には寛解期には“所見がほぼない”ケースもある、という解説も出てきてます。 X (formerly Twitter)+1
この流れ、報道が情報を“切り取って”提示した結果、多くの人が「所見なし=病気じゃなかった」という誤った結論へ飛びついてしまった。これは明確な誤報(もしくは不完全報道)と言っていい。
切り取り報道の怖さと切り取られた情報への怒り
- 文脈抜き出し:解剖時点の「所見なし」という発言だけを見出しにし(←ここが問題)、「だからUCじゃなかった」という結びつけをせずに流す。これが“切り取り”報道の典型で、ある種の悪意を感じる。
- 疾患特性の説明欠如:報道が「寛解」という状態、「所見がなくても病気があった」という事実を十分に説明せず。読者が「病気=常に悪い状態」というラベルで理解してしまう。
- 偏った情緒化:SNSで“仮病”“偽病”というキーワードが飛び交い、当事者や家族への偏見に繋がる。「所見が出なかった=病気じゃない/嘘だった」という感情的な短絡解釈が加速する。
- 故人・患者への影響:報道対象が元首相という著名人であるがゆえに、「仮病疑惑」という負のレッテルが広がると、同疾患を抱える多くの人への風当たりが強くなる。尊厳や配慮が足りない。
その難解さゆえただでさえ理解の進みにくい潰瘍性大腸炎という疾患。
それに対して誤解を助長するような報道が出るのは、患者に対する差別を生む危険すらあると感じます。誠に遺憾であり、尊厳や配慮に欠ける報道姿勢だなと思います。
私は家族にさえ理解してもらえればそれで良いと思っています。
しかし、交流のあるUC患者さんたちの中には、社会での理解を必要としている方も多い。(“欲しい”ではなく“必要としている”方もいらっしゃるのです。そうでなければ生活ができない方も中にはいるのです。)
そういう方々の逆風になるかもしれないことを、分かって報じているのか?
記事に話題性があってクリックが稼げればそれでいいのか?
もしそうなら、それは報道の使命を見失った書き手の末路だと思います。
敬意を忘れずに言いたいこと
UC患者のあきたりょうとして言いたい。
安倍晋三元首相には、病気と闘いながらも公務を全うされてきた敬意しかありません。
それにも関わらず、「所見がなかった」という一文だけが切り取られ、「仮病だったのでは?」という疑念につながる報道の構図には、怒りを禁じえません。
しかも、口のない故人に対してですよ?
報道機関やSNS発信者には、言葉の重みと被報道者・関係者・疾患を持つ当事者に対する配慮を強く求めます。
まとめ|誤報が残したもの、伝えたいこと
安倍元首相には、若き頃からこの難病 潰瘍性大腸炎 と共に歩まれたという報道があります。一説によれば17歳の時に発症し、生涯にわたって治療と向き合い、公務に邁進されたとのこと。もし事実であれば、その人生は「病気とともに強く生きる」まさにモデルそのものだったと言えるでしょう。
それゆえに、今回の「所見なし=仮病」という切り取り報道の構図には、ただの誤解以上の哀しみを感じずにはいられません。敬意を抱いて語られるべき人生が、病気ゆえに疑われる構図に落とし込まれてしまったこと、誠に遺憾であり、私たちUC患者にも重く響きます。
報道の自由は大切です。
けれど、言葉には人を救う力もあれば、傷つける力もある。
今回の「潰瘍性大腸炎の所見なし」という見出しが一人歩きした結果、安倍晋三元首相という一人の政治家、そして同じ病と闘う多くの患者が、再び“誤解”という刃で傷つけられたように思います。
潰瘍性大腸炎は、治ったり悪くなったりを何度も繰り返す病気です。
「所見なし」は“治った”でも“嘘だった”でもなく、“今は落ち着いている”というだけの医学的状態。
そこを切り捨てた報道は、ただの情報ではなく「偏見の燃料」になってしまう。
潰瘍性大腸炎患者に対する差別のようにも取れる。
報道はどこまで人を傷つければ気が済むのか。
故人に対する仕打ちがそれか。
全くもって怪しからん。
私たち患者が必要としているのは、“理解されること”であって、“疑われること”ではありません。
安倍元首相の名誉と、すべてのUC患者の尊厳のために──
この誤解だけは、正しく伝えておきたかったのです。
この記事の筆者|あきたりょう×UC

あきたりょう|ブログ「ビギナーズノート」運営者
10年の学習塾講師経験、5年の大手ディーラー営業を経る中で、2020年に国指定難病「潰瘍性大腸炎(全大腸型・中等症)」を発症。寛解・再燃を繰り返しながら、病気と共に生きる日常を発信中。UCは現在絶賛治療中。
本記事は、同じ病を経験する一人として、安倍晋三元首相に対する誤解と報道の在り方に“社会的講義”の思いを込めて執筆しました。
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